俺は、
このままじゃお互いに幸せになれないだろうと、ひと思いにちびの首を捻った。

「ままはお前のこと助けたくないってさ」
「ｷｭｯ！？や、やだしー！ままー！」
悲鳴をあげ、泣き叫びながら、ちびたぬきはジタバタ抵抗しながら助けを求めた。
勝手なもんだな、と親たぬきが少しだけ憐れになるが、先程迷った時点で見捨てつつあるのだろう。
ままと呼ばれ、ようやく正気を取り戻したのか一回転たぬきが駆け寄ろうとした瞬間、
「まｷﾞｭｯ」
「ゆ゛る゛じでぐだざ… あ゛…あ゛あ゛…びどい゛じ…！」
涙を流しながら、こちらに飛びかからんばかりの勢いで唇上を噛み締めた汚い声の親たぬきだったが。
何かを認めて、動きを止めた。

「キュウ〜♪キュウキュウ♪ｸﾁｬｸﾁｬ…」
何事かと振り向いたら、もどきが4匹分の身体を貪っていた。頭はすでに食べてしまったらしい。
遊んだ後の処理をしてくれて助かる。
しかし、まさかもどきに尾行されていた事に気がつかなかったとは。
我ながらたぬきに夢中になり過ぎたと、反省しなければ。
「だじげでじぃ゛っ゛…死゛に゛だぐな゛ぃ゛じぃ゛…っ！」
先程と全く同じ言葉を繰り返す汚い声のたぬきは無視する。
お前、さっきの怒りと威勢はどうした。
憐れに思い、一言だけ投げかけてやる事にした。
「もう待ってるちびいないし、いいだろ」
「じぃ゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛！」
「キュウ〜♪ムシャムシャ…キュウキュウ♪」
市役所の鳥獣対策課にたぬきもどきが出たと電話して、帰ることにした。
実は、あのコリッとした感触が手から離れない。
しばらくはたぬきを見かけたら首をこの手で捻ってしまいそうだ。
どんなに可愛らしく、どんなに懐いてくる子だとしても。


帰宅し、ドアを開けると。
「ごしゅじん、おかえりなさいし！寂しかったしぃ…！」
いつもの通りに飼いたぬきはこちらへ駆け寄り、モチモチとした頬をすりすりして甘えてくる。
嗚呼、こいつは今までずっと大事に育ててきたのに。
でも、あの快感には逆らえないんだ。
俺は涙を流しながら、愛するたぬきに手を伸ばす。
「ごしゅじん泣いてるし…？どしたのし…たぬきまで悲しくなっちゃうし…」
フリではなく心から共感が出来るたぬきだったので、涙ぐんでこちらを見上げてくる。
名残惜しみながらも、たぬきを抱き寄せた。
「ｷｭ…？たぬき抱っこしてくれるし？うれしいし！」
頭頂部をつかんで、
「さわってし…いっぱい撫でてくださいし…♪」
くるりと一回転させる。
｢ｷﾞｭｴｯ」
突然、視界が回ったことと暴力を受けたショックで、飼いたぬきは錯乱しながらも、こちらを涙目で見つめてきた。
「な゛ん゛で、じ…？」
やはり、先ほどと同じで汚い声に変わっていた。
もしこのままであれば、声と首に違和感がありながらも生活は出来るだろう。
しかし暴力によって引きちぎられた信頼はもう戻らない。
こいつは自分の声に自信があり、うどんダンスの時も必ず歌っていたので、汚い声になった事にストレスを感じ、やがて衰弱してしまうだろう。
ならば、このまま楽にしてやるしかない。
ずっと考えていた。たぬきの首を大きく捩った状態で、もう一回転させるとどうなるだろうか。
同じだけ回転させて戻せば、最初のたぬきのようになるが、おそらくは。
再び頭頂部に手を置かれ、今度は明らかに嫌がって泣き叫ぼうとするたぬきだったが、
「や゛べべっ゛」
ぶちん、と何がが切れる音がした。
心にのしかかってきた重圧感に反して、
伝わってきた感触は、やはり心地がよかった。

予想通り、首と胴体は泣き別れてしまった。
涙の跡が残るションボリ顔の頭部と、
糞尿でパンツを汚した胴体を下ろし、手を合わせる。
掌には、たぬきの首を捻った時の感触が生々しく残っていた。
けれども、まだ足りない。腹ごしらえをしたら、ここらのたぬきの巣を探しに行かなければ。
空を掴む掌が、再びあの感触を欲している。
この手は、二度とたぬきを可愛がれない手になってしまったーーー。


オワリ
